詩
返事
Yさんの話は前から聞いていた
ゆうべテレビをつけたら
きょう中国へ帰ると言っていた
Yさんは中国に残された女の人
外僑養老院の居間で
両手を組んで憩っていたーー
ここに残っている人はだれでも
祖国に帰りたいと思っている
日本のことを忘れたわけではない
尋ね当てた肉親に拒まれ
玄関の戸を閉めて帰るとき
母親の墓の隣にも
線香を分けるとき
Yさんの胸に去来した孤独を
対岸のけしきを見るように
細かくていねいに写していた
Yさんはもう来ることはない
ときどきたよりをしてくださいね
これはYさんへのあいさつである
('87.2.11)
荒川線へ
始発の駅に着いたのは
午後四時過ぎであった
黄色い車両が
目の前に現われるまで
私はその男の存在に
気がつかなかった
男は
四人の子供たちの
親しい友だちとして
私の目に映った
長く細っそりした指で
鳴り止んだベルを差し
おどけてみせる素振りが
不思議に胸を打つので
その言動の奥を見つめていた
子供の目を持つ大人
自分によって他人を養う人
四季を通じて吹く
風のような存在ーー
男がいなくなったあと
チンチンという音は
なぜか寂しく聴こえた
('86.4.6))
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